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東京高等裁判所 昭和50年(ラ)192号 決定

抗告人 中村庄市

右代理人弁護士 佐藤正八

相手方 有限会社豊商事

右代表者取締役 高野豊

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及びその理由は別紙に記載したとおりである。

記録によると、本件差押及び転付命令が当事者の審尋を経ずに昭和五〇年三月二四日付で発せられ、同命令が第三債務者である国に三月二六日、債務者である抗告人に三月二九日、それぞれ適法に送達されたこと、抗告人が、本件差押及び転付命令の基本となった債務名義である千葉地方法務局所属公証人大井好仁作成昭和四九年第七一七号抵当権設定債務弁済契約公正証書に対し、千葉地方裁判所松戸支部に請求異議の訴を提起し、三月二八日付で右公正証書に基づく強制執行の停止決定が発せられたことが明らかであり、かつ、四月二日、右強制執行停止決定の正本が原裁判所に提出されたことは抗告人の自認するところである。

審尋を経ないで発せられた債権差押及び転付命令に対して、不服のある利害関係人が、直ちに即時抗告をなしうるか否かは問題のあるところではあるが、この点は措ておき、転付命令の制度は、同命令が債務者及び第三債務者に適法に送達された場合には、債務者は券面額で債権の弁済をなしたものと看做す(民事訴訟法六〇一条参照)ことにより、執行債権者と債務者との間で執行債権についての簡明な決済をはかり、もって執行債権者の優先的弁済を確保させ、他方執行債権者にそれにともなう危険を負担させることにするものであるから、転付命令が債務者及び第三債務者に適法に送達されたときは、執行債権者は執行債権の満足を得、その結果当該強制執行はその目的を達して終了したものというべく、これに対しては、もはや、不服申立ては許されないものと解すべきである。

したがって本件差押及び転付命令が債務者である抗告人及び第三債務者である国に適法に送達された後に、右強制執行停止決定の正本が原裁判所に提出されたのであるから、本件強制執行手続は右送達のときにすでに終了しており、もはや本件強制執行手続について不服申立ての余地はなくなったものというべきであるから、本件抗告は、この点においてすでに不適法というべきである。

なお付言するに、抗告人が右強制執行停止決定を得たのは本件差押及び転付命令が発せられた後であるから、これが発せられる前にすでに債務者が同決定の正本を所持している場合等と同様に考えることはできないし、また相手方が本件差押及び転付命令によって取得した供託金取戻請求権が、抗告人主張のとおりの保証金に関するものであり、かつ右債務名義たる公正証書の内容である債権の存否等に関する訴訟が係属中であるとしても、当該訴訟の結果により、相手方について不法行為責任又は不当利得が問題となりうることは格別、本件差押及び転付命令の効力に影響を及ぼすものではない。

よって、本件抗告は、不適法であるからこれを却下すべく、抗告費用の負担については民事訴訟法第九五条第八九条の規定を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 枡田文郎 裁判官 福間佐昭 古館清吾)

〈以下省略〉

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